コンテクスト・シンキング その4
- ObokataTakayuki

- 2022年1月19日
- 読了時間: 5分

インタビューによってインサイトを深掘りし、多くの要素を取り出す作業を、「コンテクスト・リサーチ」と名付けています。 「リサーチ」に「コンテクスト」をつけている理由は、リサーチを行う際、あくまでもコンテクストに則して遡ることが前提だからです。 例えば、繊維の町桐生では、「きものが売れないこと」がしばしば課題として提示されます。これを課題とした場合、どのようにリサーチを行うか考えてみます。 「着物が売れないのは、着るのが難しいから」 セパレートで帯を結ぶ必要がない着物を作ってみたら、着物を着たい人には受け入れてもらえず、逆に、ユニフォーム業界が着目して、和食のお店で使われたという話を聞いたことがあります。 「着物が売れないのは、価格が高いから」 安い価格帯の着物を作って販売したケースでは、結果的に、生産が全て国外となり、着物は多少売れたけど、国内のメーカーがさらに苦しくなったという話も聞きました。 一見するとこれらの仮説を「正解」のようにイメージしがちです。 まず課題の設定がカギとなります。 着物が売れないというのは課題というより、事実です。原因があって結果としての事実が、「着物が売れない」ということです。 では、「着物が売れない」という事実による課題とは何か?ですが、「繊維の町桐生の地場産業が衰退してしまう」という課題があげられます。雇用がなくなる、技術の継承が途絶える、産業の衰退からいろいろな懸念が生まれます。 連続する因果関係は、行ったり来たりしながら検証していきますので、では、逆に着物が売れれば、それらの課題は解決するのか?を考えます。 「雇用の継続」「技術の継承」が課題だとすると、着物でなくても良さそうです。他の現代のニーズに合わせた何かを作れば良いし、もっと言えば、それらの技術だけを取り出せば、新しい産業に転用できるかもしれません。 前者であれば「銘仙の柄をプリントしたタイツ」「銘仙の染めの技術を使ったストール」「強撚糸で作るボディタオル」などがあります。 後者であれば「まゆけばから抽出したシルクプロテインを取り出して化粧品へ転用」「整理の技術を応用して液晶パネルのフィルム製造ラインへ転用」「織物技術で炭素繊維や金属繊維の織物を作る」などの事例があります。 このように、着物が売れないという事実を起点に探っていくと、そこから見えた課題である雇用と技術は、すでに解決事例があり、ネクストワンを探せば良いだけになります。 文脈を意識すると別の視点も生まれます。 先の視点は、「着物が売れない」という事実から、関連する事実を紐解いて言った場合ですが、今度は着物というプロダクトそのものを取り巻く環境から紐解いてみます。 まず、「着物が売れない」と言われているけど、本当に着物が売れていないのか?を考えてみます。 すぐに思いつくのは「バイセル」のテレビCMです。バイセル自体は、リユースの総合プラットフォームを目指していて、そのメインの商材が着物です。着物買取をあれだけ派手に宣伝するということはそれだけ売れるということが想像できます。実は着物ユーザの9割は、着物自体が新品でも中古でもどちらでも良いというリサーチ結果が出ています。つまり、着物に長らく使われてきた「アンティーク」という言葉が、新品の価値を希薄にしてきたのです。 そうなると、そもそも「着物が売れない」という起点自体が怪しくなります。もっと丁寧に言うなら、「新品の着物が売れない」ということです。これも、売れないというより、売れなくなったという方が適切かもしれません。 そうすると、今度は「売れなくなった」から、売れていた時代を探り、どんな人が買っていたのか、どんな人に売れていたのか、というところが気になるところですが、ここで大きな隔たりがあります。売れていた時代には、その情報を問屋が持っていたので、製造メーカーはその実態を把握できていたわけでないということです。 総体的に新品着物が売れなくなり、その結果、問屋が維持できなくなり、問屋が無くなることで、メーカーは何を作れば良いかがわからなくなり、「生き残っている問屋へ売り込む」か、または、「自社で小売を始める」、「自社で小売に売り込む」などの選択肢が生まれます。
着物というプロダクトに着目すれば、それがユーザの手に渡る商流(これもコンテクストの一つ)を考えれば、「小売店から買う」、「メーカーから買う」の2つしかないし、メーカーから見れば、「消費者に売る」、「問屋に売る」、「小売店に売る」の3つの選択肢があり、問屋が売り場情報を持っていることで障壁があったのだから、「消費者に売る」、「小売店に売る」の選択肢が良さそうです。 と、こんな感じでまだまだ続けられますが長いので止めます。 このように、一つの事実「着物が売れない」からみても、いろいろな事柄が枝葉が伸びてストーリーとして展開できることがわかります。このストーリー(連続する因果関係=コンテクスト)をいくつ導けるか?全てを導けたのか?を意識して紐解いて、リサーチしていくことが大切であり、それが終わるまでは「何をするか?」は考えない方がいいですね。 対話を何回も繰り返し、製造者、問屋、販売者、お客さんなど、ステークホルダーを洗い出して、それぞれの経緯を丁寧に確認し、一つのストーリーとして全体を捉えるようにしていきます。 立場を変えて視点を変えて、とにかくたくさんのストーリーを見つけ出すことが大切です。全てのストーリーが見つけられれば、あとは、その中から、長く続くストーリーを見つければ良いのです。それを突き詰める作業を「コンテクスト・リサーチ」としています。 *他の方も同じようなことを指摘していると思いますが、ここでは「コンテクスト」を意識することで、それらの思考を体系化できないかと試みている次第です。






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